東京大学で庭園フォーラム第3弾「日本庭園と“ひと”とのあいだに」開催|日本庭園とウェルネスを議論
東京大学で庭園フォーラム第3弾「日本庭園と“ひと”とのあいだに」開催
2027年国際園芸博覧会「GREEN×EXPO 2027」に向けた三者連携企画として、庭園フォーラム第3弾「日本庭園と“ひと”とのあいだに(HOW GARDENS SHAPE US: PEOPLE AND NATURE)」が2026年5月20日、東京大学本郷キャンパスにある伊藤謝恩ホールで開催されました。
本フォーラムは、国外でも屈指の日本庭園として知られるポートランド日本庭園、国指定文化財(名勝)の庭園を有する東京大学、そしてGREEN×EXPO 2027の三者が連携して実施。昨年5月に続く第3弾として、日本庭園が人の心身に与える影響について、人文科学とサイエンスの両面から考察しました。

第3弾となる今回は最多となる約250名が申込
参加者数は回を重ねるごとに増加しており、第1回の約30人、第2回の約100人に対し、今回は約250人が申し込み。日本庭園への関心の高まりとともに、GREEN×EXPO 2027への期待の広がりもうかがえました。なお、第4回フォーラムはGREEN×EXPO 2027会場で実施予定です。

東京大学にある2つの庭園
会場となった東京大学本郷キャンパスには性格の異なる2つの庭園が存在することも紹介されました。一つは、人の手による管理・手入れが行われている「懐徳園庭園」。もう一つは、旧加賀藩前田家ゆかりの「三四郎池(育徳園心字池)」で、自然に近い形を保ちながら最低限の手入れにとどめられており、落ちた枝木なども持ち出さず、庭園の循環を尊重していると説明されました。両庭園を比較して見てみると新たな発見がありそうです。

アメリカは国際園芸博覧会に初参加

フランク・フェルテンズ氏(スミソニアン協会国立アジア美術館学芸部長兼 日本美術主任学芸員)からは、アメリカとの庭園・植物を通じた交流についても言及がありました。アメリカ建国250周年を記念し、日本から250本の桜が贈られ、ワシントンD.C.で植樹が進められていることが紹介され、現地の桜祭りなど長年の日米交流にも触れられました。GREEN×EXPO 2027会場予定地・上瀬谷が米軍施設返還地であることも交えながら、国際的なつながりへの期待が語られました。
アメリカは国際園芸博覧会初出展
加えて、アメリカがGREEN×EXPO 2027への参加を正式表明していることにも触れられました。1960年に国際園芸博覧会制度が始まって以来、アメリカが国として参加するのはGREEN×EXPO 2027が初めて。60年以上の歴史の中で実現する“初出展”となります。アメリカの展示では、「幸せの追求」をテーマに、アメリカの植物や公共庭園文化を紹介しながら、没入感のある展示、アート、学びの機会、アーティストとの交流、学生・専門家向けワークショップなども展開される予定です。

フランク氏は、「GREEN×EXPO 2027をきっかけにアメリカの庭園文化にも関心を持ち、実際に現地の庭園にも足を運んでほしい」とのメッセージもありました。また、大阪・関西万博の成功を踏まえ、GREEN×EXPO 2027の成功への期待も語られました。
基調講演「庭は死なない」原瑠璃彦氏

基調講演では、日本庭園研究者で静岡大学准教授の原瑠璃彦氏が、「庭は死なない」と題して登壇しました。
日本庭園に古くから造られてきた「蓬莱島」は理想郷を象徴し、池は海の代理、洲浜は“永遠なるもの”との境界として機能しているといいます。こうした思想について、原氏は著書『洲浜論』でも考察しています。
また、原氏が中心となって進める「庭園アーカイヴ・プロジェクト(GAP)」についても紹介されました。ウェブサイト「終らない庭のアーカイヴ(Incomplete Niwa Archives)」では、日本庭園を3Dスキャン、高解像度撮影、立体音響(アンビソニックス録音)、DNA解析などを用いて記録。植物や生物などのデータも含め、庭園を多面的に捉える新たなアーカイブの可能性を探っています。

原氏は、「単なる技術開発ではなく、そもそも日本庭園とは何なのかを問い続ける試み」と説明。日本庭園を「常に動き続ける、一回性の舞台芸術、パフォーマンス」と表現し、植物の成長や季節、人の手入れによって変化し続ける存在だからこそ、可能な限り“動的なものを動的に”アーカイブしていく必要があると語りました。
一方で、情報量を増やすだけでは十分ではないとも指摘。「庭のように心地よく眺められるアーカイヴ」を目指していると話しました。
「日本庭園は良薬です」エクトル・ガルシア氏

続いて、作家のエクトル・ガルシア氏が「日本庭園は良薬です」と題して講演しました。元科学者でもある同氏は、「IKIGAI(生きがい)」という言葉を世界に広めた人物として知られています。
講演では、スペインなど海外で「IKIGAI」が広く浸透している現状を笑いを交えて紹介。「IKIGAIラーメン」やタトゥーにその言葉を刻む人もいるなど、日本の価値観が広がっていると語りました。
また、自然との関係性について、西洋と日本の違いにも言及。スペイン・トレドでは、教会が街の中心に置かれ、自然は危険な存在として認識されてきた一方、日本では自然と都市空間が混ざり合い、「神は私たちの周りにいる」という感覚が根付いていると説明しました。

さらに、「現代人は一日中、虎に追われているようなもの」と表現。昔は緊張状態も一時的でしたが、現代ではスマートフォンなどによって常に情報にさらされ、脳が休まる時間を失っていると指摘しました。
その解決策の一つとして挙げたのが「自然」です。森林浴によって免疫機能に関わるNK細胞が活性化することなど、自然環境が健康に良い影響を与えることは科学的にも示されていると紹介しました。
講演では、日本庭園の効果に関する研究も紹介されました。京都の名園「無鄰菴(むりんあん)」と、京都大学構内にある別の日本庭園を舞台に、庭園を見ることで私たちの心身にどのような変化が起こるのかを調べた実験では、「視線」に注目しました。日本庭園を見た人は、一点を強く見つめるのではなく、視線を広範囲に移動させる傾向が見られ、リラックス状態が確認されたといいます。“ぼーっと眺める”こと自体に意味がある可能性を示す研究として紹介されました。

最後に、「もっと庭園や自然にアプローチし、技術は必要な時だけ使うべきだ」と提言。自然との接点を意識的に取り戻すことの重要性を訴えました。
「庭園画と文人サロン」出光佐千子氏

出光美術館館長で青山学院大学教授の出光佐千子氏は、「“庭園画”と文人サロン」をテーマに講演しました。
出光氏は、庭そのものだけでなく、「庭に住む人」や「それを描いた絵師」に注目することで、日本庭園の見え方が変わると説明。庭園画を『ダ・ヴィンチ・コード』のように、人物や意匠、背景を読み解きながら鑑賞する面白さがあると語りました。
また、庭園は文人や知識人が集う「サロン」の場でもあり、自然の一部を借景として取り込みながら、人と人をつなぐ空間として機能していたと紹介しました。
講演では、浮世絵師・勝川春章の《美人鑑賞図》も取り上げられました。背景には六義園を思わせる庭園が描かれ、大名家のために制作された特別な作品と考えられているそうです。
「日本庭園のフォスタリングとウエルネス」加藤友規氏

セッション2では、加藤友規氏が、「日本庭園のフォスタリングとウエルネス」と題して講演しました。
京都を拠点に造園業を手掛ける加藤氏は、庭園だけでなくホテルやレストラン、海外プロジェクトの庭づくりにも携わるほか、指定管理者業務や大学教育にも関わっています。現在は京都芸術大学大学院教授も務め、日本庭園の価値を次世代へ伝える活動を続けています。
講演では、前セッションでエクトル・ガルシア氏が紹介した、日本庭園の鑑賞によるストレス軽減効果にも触れ、日本庭園が人間のウェルネスに寄与する仕組みが科学的に明らかになりつつあると説明しました。
一方で、ウェルネスは人間だけのものではないとも指摘。たとえば、絶滅危惧種でもある淡水魚「イチモンジタナゴ」が、京都の平安神宮の池を“リフュージア(避難場所)”として生息している事例を紹介し、日本庭園は多様な生き物にとっても居場所となり得ると語りました。

「庭は完成ではなく誕生」
加藤氏が講演の中心テーマとして掲げたのが、「フォスタリング(Fostering)」という考え方です。
加藤氏によると、フォスタリングとは、「日本庭園の景色を育む人々の営みのすべて」を指す概念で、言い換えれば単なる維持管理ではなく、“育成管理”に近い意味を持つと説明しました。
庭師が日々庭を手入れする感覚に最もしっくりくる言葉だとし、「庭は完成ではなく誕生」と表現。庭づくりは完成して終わるものではなく、そこから庭の命が始まり、長い時間をかけた“ガーデンライフ”が続いていくと語りました。
作庭における比重についても、「作ることが40%、その後の管理が60%」と説明。完成した瞬間の喜びだけではやがてマンネリ化してしまい、その後のフォスタリングこそが、はるかに重要だと強調しました。

暗黙知をどう継承するか
さらに、庭師の学びのあり方についても言及。従来、庭師の技術は「口伝」や経験による“暗黙知”として受け継がれてきたとし、自身もそのような形で技術を学んできたと振り返りました。一方で、今後の継承には、言語化や共有可能な“形式知”との両立が必要だと指摘。集団として知識を理解・継承するための手法として、経営学者・野中郁次郎氏による「SECIモデル」にも触れ、日本のものづくり産業の強みである知識共有の仕組みを、日本庭園の継承にも応用していきたいとの考えを示しました。

ディスカッション「日本庭園と幸福感について」
庭を育て、共有し、次世代へつなぐ
セッション2後半では、加藤友規氏、GREEN×EXPO 2027協会推進戦略室長の脇坂隆一氏、ポートランド日本庭園で日本庭園文化・技術を担当する鳥居ヒューゴ氏によるディスカッション「日本庭園と幸福感について」が行われました。
冒頭、加藤氏は、日本庭園を取り巻く環境について、「プライベートな庭園とパブリックな庭園では、歴史が一桁違う」と指摘。個人の庭が比較的短い時間軸で維持される一方、公的な庭園は長い歴史の中で、多くの人の手によって守られてきたことに言及しました。
GREEN×EXPO 2027が目指す“共有する空間”
脇坂氏は、GREEN×EXPO 2027のコンセプトについて説明。国土交通省時代には海外の日本庭園修復にも関わってきた経験を踏まえながら、今回の園芸博覧会では、多くの人と「自然との共生や時間・空間をシェアする」という考え方を重視していると語りました。

会場内に設けられる「園芸文化館」では、江戸時代の植木屋や花屋敷を再現し、展示内容を定期的に入れ替える予定であることも紹介。また、「日本政府苑」では、日本庭園をゆっくり鑑賞できる空間を設ける構想に加え、宮内庁から盆栽を借りて展示をすることも検討されていることが語られました。


脇坂氏は、「日本人が元々行っていた営みの中に、幸福感につながるものがある」とし、来場者にはそうした文化を“追体験”してほしいと話しました。
万博かつ国際園芸博覧会である「GREEN×EXPO 2027」では、新技術を紹介するだけでなく、伝統的な園芸文化にも光を当てる方針で、「園芸業界は高齢化が進んでいる。興味がなかった人でも出会える場にしたい」と期待を寄せました。
さらに、過去の筑波博や大阪花博の経験から、「幼少期に博覧会を体験したことが、後の関心につながっている人が多い」と指摘。会場では子どもたちに焦点を当てた展示やパビリオンを準備しており、「できるだけ多くの子どもたちに、この世界の面白さを知ってほしい」と語りました。
“してもらう側”だけではない幸福感
鳥居氏は、ポートランド日本庭園の運営経験を踏まえ、ボランティアの存在に言及。「庭を楽しむ側だけではなく、手入れや運営に関わる人たち自身も幸福感を感じている」と説明しました。
また、アメリカ・オレゴン州では、日本のように長い歴史を持つ建築や庭園文化が少ない中、「伝統をつくっていこうとしているように感じる」と述べ、日本文化を受け継ぎながら新たな文脈を形成していく姿勢に触れました。
日本庭園文化をどう継承するか
ディスカッションでは、日本庭園文化を異文化や次世代へどう伝えていくかも大きなテーマとなりました。

加藤氏は、「今の若い世代は根性論ではなく、科学的なトレーニングをしている」と指摘。庭師の世界で長く暗黙知として継承されてきた技術についても、何十人もの担い手が知識を共有しなければ継承は難しいとして、前講演でも紹介した「SECIモデル」の重要性を改めて強調しました。
鳥居氏は、ガーデナー育成の難しさとして、「庭が誕生した時と同じような愛情を、長い時間モチベーションとして持ち続けること」を挙げました。ポートランド日本庭園では、東京都と連携し、六義園での研修なども実施。今後は技術だけでなく、日本庭園が持つ文化的背景まで理解した上で育成していきたいと語りました。
また、日本が学べる点として、「急速な多文化化は止められないからこそ、日本を見つめ直すことが必要」と指摘。自然美の捉え方を再認識しつつ、世界各地の伝統や仲間からも学んでいく姿勢の重要性を強調しました。
「ぼーっと見る」博覧会に
フォーラムの最後には、公益社団法人2027年国際園芸博覧会協会の河村正人事務総長が閉会挨拶を行いました。

河村事務総長は、まず国際園芸博覧会をめぐる世界的なつながりについて触れ、GREEN×EXPO 2027へのアメリカ出展に言及。2029年にはタイ・コーラートでの開催に引き続き、2031年にはアメリカで初となるA1クラスの国際園芸博覧会の開催も予定されていることを紹介し、「しっかりと次につないでいきたい」と展望を語りました。
会場内を流れる相沢川の周辺にあった農地を再現
また、「実は今日の朝、博覧会会場で田植えをしてきました」と明かし、会場内で進められている農地エリアの整備について紹介しました。
GREEN×EXPO 2027では、会場を流れる相沢川周辺に、かつて存在した農地の風景を再現するため、田んぼや畑を整備。河村氏は、「園芸博覧会で、その国の食料生産の現場である農地を、そのままの形で会場に再現するのは初めての試みではないか」と説明しました。
会期中には、季節ごとの作物が育てられ、農業体験やガイドツアーも予定されています。

田んぼや畑、日本庭園―それぞれ作り手が生み出す美しさ
河村氏は、日本庭園と田んぼ・畑の美しさの違いにも言及。「日本庭園は作り込まれた美しさがある一方、田んぼや畑は、機能の美しさだ」と表現しました。
晴れた日には、青空が水田の水面に映り込む「水鏡」の風景が広がり、「日本人にとっては、どこか安らぐ景色ではないでしょうか」と語りました。
さらに、「田んぼや畑、日本庭園――それぞれ作り手が生み出す美しさが、一つの博覧会会場の中に共存する」とし、GREEN×EXPO 2027ならではの空間体験になるとの考えを示しました。
ぼーっと眺める園芸博覧会に
そのうえで、来場者に向けて、「ぜひ“ぼーっと”ご覧いただきたい」と呼びかけました。
効率や情報に追われがちな現代だからこそ、何かを理解しようと力まず、日本庭園や田んぼ、畑をただ眺める時間にこそ価値がある。
GREEN×EXPO 2027では、日本庭園の美しさだけでなく、田んぼや畑の“機能の美しさ”も共存する。ぼんやりと景色を眺めながら、日本の自然や食、文化とのつながりを感じる体験こそ、この博覧会ならではの魅力になりそうです。
開催概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| イベント名 | 第3回庭園フォーラム「日本庭園と“ひと”とのあいだに」 |
| 日時 | 2026年5月20日(水)13:00~17:30(開場12:30) レセプション:18:00~19:30 |
| 会場 | 東京大学本郷キャンパス |
| 使用言語 | 日本語・英語(同時通訳あり) |
| 参加費 | 一般 6,000円/学生 3,000円(レセプション含) |
| 申込開始 | 2026年4月10日~ 申込サイト |
| 共催 | ポートランド日本庭園およびジャパン・インスティテュート、2027年国際園芸博覧会協会 |
| 後援 | 東京大学 |
| 協賛 | 東京倶楽部 |
関連リンク
- 庭園フォーラム第3弾「日本庭園と“ひと”とのあいだに」を開催します|GREEN×EXPO協会
- 「日本庭園と“ひと”とのあいだに」|ポートランド日本庭園
- 終らない庭のアーカイヴ(Incomplete Niwa Archives)
- https://hectorgarcia.org
- 日本庭園鑑賞によるストレス軽減効果の仕組みを科学的に解明|長崎大学
- 「フォスタリング」ではぐくむ造園実務者の人財育成
- 主催者屋外展示(「相沢川」)について
- 懐徳館庭園公開(一般可)・懐徳館館内見学及びツアー|東京大学
